「思想の科学」大阪グループ・レジュメの一部から



買売春をめぐる20の言説 <中間テスト>


■日 時:1997年9月27日
■場 所:ドーンセンター
■出題者:加藤正太郎

■課 題 次の●から●までのそれぞれの「言説」を読み、問に答えよ。

●この法律で「売春」とは、対償を受け、又は受ける約束で、(   )の相手方と性交することをいう。   
特定 不特定



●今日の妻の大部分は、たとへその結婚が親の命令に出たものであっても、またいかほどか厳かな儀式のもとに行われたものであっても、未知な従って(   )のない男子に生涯に亘る生活の保証を得るため、その「性」を売ったといふ一事に於て、既に矢島氏等が、道徳的に最も劣等なものとして、賎み、憎み、怖れ、且つ憐れんでいられる芸娼妓とその根本に於ては大差のない一種の売淫婦ではありませんか。
愛 人格的つながり



●「新日本女性に告ぐ!戦後処理の国家的緊急施設の一端として(   )慰安の大事業に参加する新日本女性の率先、協力を求む。ダンサー及び女事務員募集。年齢十八歳以上二十五歳まで。宿舎、被服、食糧、全部支給。」
進駐軍 従軍



●わが国の健全な発展のためには人格が重んじられ、人権を基礎とする民主的政策が取ら れねばなりません。売春問題は今や極限に達し、このまま放置すれば日本は売春国として滅び去る運命にあります。‥‥‥ここに売春を「社会上やむを得ざる悪」とする通念を打破し、女性の(   )を守り、健全な社会をめざして立ち上がったものであります。売春を婦女子に強いてこれを搾取する悪徳業者を撲滅し、これら婦女子を守るような政治が行われねばなりません。
人権 純潔



●また或る婦人議員さんは、私たちを視察された折り、弱い貴女たちをえさにして搾取する業者は悪辣だとも言われました。然しわたしたちは、表面に出ている赤線区域の業者よりも、一般社会からは自由であると見られている、(   )や街娼婦の背後をあやつるヒモ、ボス等のだにのように喰い付いている黒幕が恐ろしいのであります。‥‥‥貴女の行いは良いと思うか 恥ずかしくないか 正業につく意志があるか 永くやってゆく考えか などと問われつづけました。‥‥おろかなものは、救済するよりも処罰するにしかず、とさげすんでいるかに見えもするのであります。‥‥‥如何に私たちの行為が社会悪だからといって犯罪と同様な処罰や保護処分として身柄の拘束を受け‥‥社会人の疑惑の目を忍ばねばならぬ様な法律を阻止しようというのであります。
赤線 青線



●マッカーサー個人はいかに純粋な紳士であっても、彼に伴う軍隊は生身のしかも戦場から戻りたての若者の群れである。野放しにすることは絶対にできない。それで最も厳重に衛生施設を備え、これを(   )でもって囲むということであった。
赤線 青線



●本条例10条1項の規定にいう「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の(   )を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。

●結婚は両性の(   )を前提とするものであることはいうまでもないところである。従って、夫が妻に対して性的交渉を強要したからといって何等違法になるわけではないし、又妻の側にこれを拒否する権利があるわけではない。(略)そして、妻が夫との一切の性交渉を拒否したことが、夫の行為の原因であり、四○代の健康な男性にとって妻から理由もなしにそのような態度をとられた場合、性的不満に陥り、妻に対して右のような行為をとったとしても止むをえないところであり、それを動物的な人権蹂躪行為と断ずるわけにはいかない。
性的結合 合意



●公布されたのは「府テレホンクラブ等営業の規則に関する条例」。来年二月一日から施行される。条例では学校や図書館、病院、博物館など、青少年が集まる施設から半径二百メートル以内の区域と都市計画できめられた住宅区域を営業禁止とし、店舗の設置はできない。広告入りポケットティッシュを青少年に配ることも禁止され、(略)府警少年課によると、府内には約(   )のテレクラ業者がある。少女が、テレクラで知り合った相手に覚せい剤を打たれる、性的交渉を強要されるなどの被害が昨年は五十八件、今年は六月までに三十五件もあった。
三百三十 三十



●自分のからだをお金にかえることの意味を、あなたはどのくらい知っていますか。あなたは、お金をSEXの代償として受け取りますが、それといっしょに望まない妊娠や( )の傷も受け取るかもしれません。それどころか、あなたが気付かないうちに、犯罪に巻き込まれているかもしれない。あなたは、数万円で見ず知らずの人に売り渡す程度の価値しかないのですか。「わたし、売春してるねん」と、あなたがいちばん好きな人に堂々といえますか。だからちょっと立ち止まって考えてください。あなたが売春をすれば、あなたの一番大切な人が、どれだけ悲しい思いをするかということを。そして、「からだを売った」事実は、あなたのこころの中で決して消えないということを。
からだ こころ



● 「テレクラ条例施行に続いて東京都が9月議会に提出する青少年育成条例改正案」気になるのはその中身だが、都の答申によれば他府県の淫行条例とは一味うものになりそうだ。「今回、規定を設ける目的は、性の商品化から青少年の人権を守ることです。従って、罰則の対象になるのは金品等の経済的な利益の対価として、18才未満の青少年と性交、または性交類似行為をしたケースです。青少年との単なるデートや(    )な恋愛までもが処罰対象になりかねない他府県の淫行条例とは、ここが違っているのです」(東京都生活文化局女性青少年部副参事・平林宣広氏)(略)今回の改正のポイントのひとつは、相手が18才未満かどうか。その確認は買う側の責任とされ、事前に十分な年齢確認をしたかどうかが<無罪放免>か逮捕かの分かれ目になる場合もある。以下は、そのケーススタディーだ。
純粋 不純



●あなたには分からないわね。愛と(   )は別のものなのよ。
結婚 快楽



●どうしても女と寝ることのできない男性障害者がいたなら、私は(   )に連れていくかもしれない。その人が一分一秒でも、心地よい気分になり、生きていてよかったとひと粒涙を流すのならそれでいいと思う。

●私に言わせれば、(   )の唯一至上の悦楽は、悪をなす確信のうちにある。男も女も、あらゆる悦楽は悪の中にあるのだということを、生まれながらに知っているのだ。

● 商品化された性という言葉の裏面には、公然隠然を問わず、必ず、商品化されない性、ないし、性の本質という言葉なり、概念なりが想定されている。‥‥‥だが、いったい、性そのものとか、商品化されない性とか、性の本質だとか、そんなものはどのようにして知られ、存在するものとされるようになったのだろうか。‥‥‥性もまた、商品化されることによってはじめて、商品化された性(金銭を媒介にした性)と商品化されない性(たとえば、愛情だけを媒介にした性)の区別が成立し、両者の共通の本質として、性そのもの、快楽としての性といった認識が誕生したのである。
先進的商品社会こそ、「性教育」なるものの必要性が増すということも、こうしてみれば、なかなか意味深長ではある。‥‥‥性が人間的本質に関わる重大時であり、生そのものであるというイデオロギー教育によって、‥‥(   )の価値低減に歯止めをかけようとするという役割を演じるものにほかならないからである。
商品 純潔



●売春がたとえば不浄と目されるのは、共同社会が育んだ人倫にもとづくゆえの、先入観であり偏見である。‥‥売春のなにがもっとも苛酷かと言えば、それは過重労働でも搾取でもない。売春を職業として支える勤労の倫理(エートス)が見出しがたい、ということだ。
ひとはまず家庭に生をうける。そこで家庭の性モラルを身につけ、それを順次に他の対象へ外挿してゆく。ひとはそうして、自分の対他世界を拡張する。いわば<性>空間上をなめらかに移動していくわけである。ところが、売春という地点へは、すんなりとした延長可能性が存しない。それは(   )な身体秩序のなかにたしかに位置するが、平均的な性モラル(家庭)の側から出発する限り、その地点へは達しえないのである。
この<性>空間のどこか一箇所に身をおいて他を排斥するのではなく、その曲率にぴったり合ったモラルと秩序を与えること。‥‥‥資本制を生きるわれわれもまた、<性>空間の全体を包む倫理を、希求しているのではなかろうか?
市民的 共同社会的



●先日話を聞いた名門私立の女子高生が、ウリを始めた動機についてこう話す。「毎日が退屈で仕方なかった。だから街で後ろから声かけられてラッキーって思ったの。でも顔を見たら不細工でしょ。<つきあう>にもそれなりの理由が必要だから、とっさに<(   )くれるんならいいよ>と答えちゃった。自分でも驚いたよ。」
結局(テレクラ)規制条例は、「お店」を繁華街から住宅地へと拡散させ、一般回線へと移行させることで、むしろ「地下化」を奨励する結果になるのだ。必要なのはむしろ「お店」を残した上で、客の身分照合や名簿管理を徹底させ、「早どり」や「ローテーション」をやめてフロントを通してつながらせることだろう。不透明になりがちな「電話風俗」の透明性を上げることこそが、本当の意味での青少年対策であるはずだ。
結局、急速な近代化の下での急ごしらえの「幸せな郊外家族」というイメージ‥‥に、人は飽き飽きしているのだ。そこには、共同体が既に崩壊しているのに、共同体の建前に合わせることを強いる圧力だけが残っているという不健全な状況がある。今やこの二重性は、形骸化した共同体の美しき建前(良妻賢母!)を演じる人々の間に、誰にも言えない密かな個人的欲望があるということを意味するものになった。共同体が崩壊しているがゆえに名付け得ないこの欲望が、「名前を欠いた存在」になったとたんに「売買春」という口実をみつけて噴出する、それこそがテレクラ売春の実態である。

●娼婦とは「男の空想のなかの他者の現身である」。‥‥ほんらい全体的な他者性、全体的な存在であるべき一人の女性が、性的存在でしかなくなっている存在を娼婦と呼ぶのです。‥‥ですから、買春がこの世に存在するということは、女性のセクシュアリティが男性の支配欲求によって奴隷化されていることに他なりません。売春婦は性的存在であることを強要される職業であるという意味で、売春は他の労働とは、どうしても同一視できないものです。売春というのは、女性がお金をもらって(   )されることです。‥‥‥女性がセクシュアリティを商品化するのは、男性のように労働力を商品化することが女性にはきわめて困難であるような状況があるからです。もし女性が男性のように労働力を商品として売ることが容易であれば、女性は好きこのんでセクシュアリティは売らない。なぜなら、それは快楽の性ではないからです。

●この社会にある限り、女はすべて「娼婦性」をまとって生きている。「性」を金銭で取引することが汚いなら、体を張って仕事のチャンスをつかもうとする女の性も汚い。‥‥さらに三食昼寝つきの保証された、永久就職の妻の行為はどうなのか。売春婦の性が貧しいというなら利害のからむ性はどれも貧しいのである。‥‥なぜ同じ貧しい性を営んでいても、売春や水商売に働く女だけが卑しいという偏見が、不断に再生産され続けているのだろうか。それは、売防法を成立させようとした人々が求めてやまなかった「性道徳」そのものから、生み出されてきているのである。‥‥‥言うまでもなく、「娼婦性」からの解放の道とは、‥‥人間と人間の関係の質を豊なものにしていくことに他ならない。男も女も相手を単にセックス処理の対象としてでなく、人格と人格を、生きざまと生きざまをぶっつけ合い続けていくことである。‥‥‥戸籍や家族のしがらみや世間の目、そして離別のあとの生活への不安、これらはしばしば、愛と錯覚されたり、愛を偽装させる。形態にとらわれず、どこにいても恋愛の主体として自由であり続けようとする営みこそが、真に(   )を産み持続させうるのである。

●少女が行きずりの男と合意で一夜をすごし、翌朝枕もとに何枚かの一万円札を発見したら、これは「(   )」だろうか。‥‥‥一夫一婦制の近代ブルジョア単婚家族の理念を、バカ正直に守ってきたのは女たちだけであった。‥‥‥性と愛を分離することも、自分の性を部分化することも、複数の異性を同時に愛することも、男なみに、女はできる。やってみたら、できたというだけだ。
近代社会は自由市場の形成を通じて、貨幣という価値に対するアクセスを万人に平等にしたが、性の自由市場で快楽という価値もまた民主化される。‥‥‥快楽の労働力商品が、娼婦や男娼というものだが、この「職業」は、快楽を自分に禁ずることを通じて、貨幣と交換にこの快楽を買手に移転する。‥‥‥<客>から金を取り、<ひも>に金を貢ぐ。快楽の流れとは逆の方向に、金がフローする。‥‥‥金で快楽が買えるとは限らないが、快楽で金は買える。だとしたら、快楽という価値は、貨幣という価値よりも汎通性の高いメタ・メディアだということになる。
「楽しいことやって、その上オカネもらったら、言うことないじゃん」という女の子たちにとっては、カネは快楽を汚さない。‥‥男がのぞまれもしないのに金を置いてそそくさと立ち去るのは、この不定形なセクシュアリティに、自分たちがなじんだ<商品>カテゴリーの枠を与えて、ただ安堵したいからにすぎない。
社会規範も、健康上の理由も、売春少女を説得するに至らない。ただ一つ、「タダのセックスの方が金銭を伴うセックスより、キモチいいよ」という快楽の原理だけが最後に生き残る。快楽は貨幣を淘汰する。快楽はその意味でも貨幣のメタ・メディアなのである。逆説的だが、この<快楽という倫理>のほかには最後の倫理はないように思われる。

(a)「矢島楫子氏と婦人矯風会の事業を論ず」平塚らいてう1917年
(b) RAA協会(特殊慰安婦施設協会)の看板 1945年8月
(c) 売春禁止法制定促進委員会(委員長久布白落実)1952年
(d)「婦人新風」(東京女子従業員連合会結成大会)1956年
(e) 売春防止法(1956年成立、1958年全面施行)
(f) 日本キリスト教婦人矯風会久布白落実
(g)「福岡県青少年保護育成条例違反事件」最高裁判決1985年
(h)「離婚請求事件」東京地方裁判所八王子支部判決1985年
(i)「援助交際って、売春やで。」大阪府・大阪府警察1996年
(j) 朝日新聞1996年11月9日
(k)「買春処罰規定の気になる威力とポイント」日刊ゲンダイ1997年8月28日
(l)「昼顔」カトリーヌ・ドヌーヴ1967年
(m)「車椅子で夜明けのコーヒー」小山内美智子1995年
(n) シャルル・ボードレール
(o)「買春する身体の生産」金塚貞文1997年(『売る身体/買う身体』所収/青弓社・刊)
(p)「売春のどこがわるい」橋爪大三朗1992年(『フェミニズムの主張』所収/勁草書房・刊)
(q)「世紀末の作法」宮台真司
(r)「セックス神話解体新書」小倉千加子1988年
(s)「<私>探しゲーム」上野千鶴子1987年
(t)「性道徳からの解放」(「女・エロス」9号)深江誠子

問1 ( )に適当な語句を入れよ。
問2 ●〜●の言説の出典を(a)〜(t)から選べ。
問3 ●〜●を年代順に並べよ。
問4 添付の表を参考に●〜●の言説について自由に論ぜよ。

 買売春容認買売春否定
■労働売春=賤業」視
売春=労働」論
「売春=賤業」視
「主婦=売春婦」論
■制度性欲自然主義
防波堤論
(一般婦女子を守る)
一夫一婦制
国の恥
性道徳
■自由と強制「売春=自由意志」論「売春=強制」論
1)人身売買、奴隷労働
2)不平等社会の強制
3)身内感情(あなたの妻や恋人や娘が売春するのを許せるか)
■資本制性と愛の分離
性の商品化
「性=人格」論



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